国際平和協力リレー・メッセージ

国際平和協力リレー・メッセージ 第3回 世取山 茂さんimg

<写真>国連メダル授与式

 世取山本部長は2007年に国連東ティモール統合ミッション(UNMIT国連警察(UNPOL)長官特別顧問として東ティモールに派遣されましたが、当時の同国はどのような状況だったのでしょうか。

 2006年4月から5月にかけて、東ティモール軍に銃撃された東ティモール国家警察(PNTL)が首都ディリを中心に離散して、ディリの治安維持機能が失われ、集団での投石、金属製弓矢での襲撃、放火、火炎瓶の投てきなどが多発していました。こうした状況を受けて、8月25日に国連安保理決議でUNMITが設立され、オーストラリア軍も1,000名派遣されましたが、素行不良者間の抗争、インドネシア占領時代からの怨恨、政党支持者間の対立、外国人排斥、米不足への不満などを背景に、暴力が多発している状況でした。私が派遣された平成19年前半のUNMITUNPOLにとっての最大の課題は、予定されていた大統領選と国民議会選をいかに平和裏に実施するかでした。

2007年の選挙の様子img

2007年の選挙の様子

プロフィール

世取山 茂さんimg

世取山 茂

山形県警察本部長

 1962年群馬県に生まれる。1986年東京大学法学部卒業。同年警察庁入庁。1992年ハーバード大学ケネディ大学院修士課程修了。同年から北海道警捜査第二課長、2001年から警視庁捜査第四課長、2008年から埼玉県警刑事部長、2010年から警察庁生活経済対策管理官を務め、2012年3月、山形県警察本部長に就任。

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 治安の改善が大きな課題だったわけですね。当時の東ティモールにおけるUNPOLの役割についてご説明いただけますか。

 UNMITの任務として、東ティモールにおける治安維持・法執行や、PNTL及び同国内務省の再建支援があり、UNPOLUNMITの主要部分でした。
 UNMITは東ティモールでは5つ目の国連ミッションですが、以前のミッションのPNTL再建支援部門は、組織体制の面でも、配属された職員の能力や経験の面でも不十分であったという批判が一部であったようで、これを受けて、UNMITではPNTL再建に向け、手厚い支援を行うこととしたんです。再建支援の中身は大きく分けて二つ。一つはPNTLの個々の警察官に対する資質の審査と再訓練。首都ディリのPNTL警察官が東ティモール国軍に銃撃され、離散してしまったことから、資質の審査と再訓練が必要とされたのです。二つ目はPNTL及び内務省の制度・運用面での改革支援です。具体的な内容としては、組織規範の制定、説明責任や報告制度の整備、内規の整備、懲罰・内部監察制度の整備、人事政策の策定、教育訓練の見直し、装備資機材の調達、施設の改修、会計制度の整備、法令の整備、政策評価の実施、活動方針の策定等々、非常に多岐にわたっていましたが、改革の実効が上がり、かつ、同時に東ティモール側が受け入れられる内容を示せるかがポイントとされていました。

騒乱で殉職した警察官の顕彰碑img

騒乱で殉職した警察官の顕彰碑

 まさに警察機構全体の再建を支援していたわけですね。世取山さんご自身は、どのようなお仕事を担当されていたのですか。

長官にメダルを授与される世取山さんimg

長官にメダルを授与される世取山さん

 UNPOLは、長官の下に、各国から派遣された1,600名以上のUNPOL警察官が、治安維持・法執行の担当ラインとPNTL再建支援の担当ラインに分かれて配置されていましたが、私はいずれのラインにも属さず、フィリピン出身のUNPOL長官の特別顧問という職に就き、PNTLの活動や再建支援について長官を通じて助言するという任務を与えられていました。実際には、UNPOLの2つのラインには職員が大勢配置されていたので、私はこれらのラインと調整し、自分から仕事を探して、長官や当該業務を担当する部署の了解を得て仕事を進めていました。
 実際に手がけた業務の例として、PNTLの基本教科書の編纂があります。当時、日本政府がPNTLの教育訓練用にUNDP(国連開発計画)に拠出していたファンドの執行残が約3万米ドルあって、UNPOLUNDPからこの予算を使ったPNTL再建支援のプログラムについてアイディアを求められていたのですが、当初、PNTL再建支援担当ラインから出されてきたアイディアというのが、2泊3日のセミナーを14コース行い、その参加者に食事と文房具を配って費消するというものでした。
 これは予算の使い方としてはちょっと、ということで、私が代案を考えることになったのです。そこで、PNTLに対する再建支援の状況を調べてみると、東ティモールでは過去5回の国連ミッションがあり、アメリカ司法省やオーストラリア連邦警察が二国間で支援プログラムを実施してきたにもかかわらず、PNTLには基本的な教科書が全く整備されていなかったことが判明しまして。そこで、基本教科書を整備してはどうかと長官に進言し、了解をいただいたんです。この教科書は二部構成で、第一部で刑法、第二部で刑事訴訟法や各種警察活動をカバーするものとしました。第一部については、東ティモールではインドネシアに占領されて以来、同国の刑法がそのまま執行されていたので、歴史的経緯はありましたが、インドネシア国家警察が使っている基本的な教科書を入手して、最終的にはPNTLの了解を得て、これを翻訳・利用することとしました。第二部については、英文で原稿を作成し、UNPOL及びPNTLの了解を得た上で、現地語に翻訳し、印刷・製本をするという段階で後任者に引き継ぎました。
 教科書の編纂以外では、例えば毎週行われる、UNMIT副特別代表と東ティモール内務大臣との定例会議に長官とともに出席していたのですが、その席で東ティモール側にインプットしたい事項を予め長官に御説明申し上げる、あるいは、その席で東ティモール側から出た内容をUNPOLの業務に反映させるということにも関わっていました。
 それから、長官は地方の実態把握や問題解決のために地方出張をすることがあり、度々同行していました。長官はディリに戻った翌朝のUNMITの会議で視察結果を報告するのですが、その報告で長官が活用できるよう、ディリに戻ったその日のうちに現地で感じたことを報告書にまとめて電子メールで提出するよう命じられていました。例えば、インドネシア領に囲まれている飛び地のオェクシ県(地図添付)では、PNTLの県警本部と、PNTLの一部であるが組織内で独立した国境警備隊の現地本部とがあり、それぞれがバラバラな指揮系統で併存しており、両組織とも慢性的な人員不足や補給兵站の問題を訴えてきたので、PNTL県警本部長の下に指揮系統を一元化すべきと提案したこともありました。

東ティモール地図

 そのような業務を通じて、東ティモール国家警察の再建や治安状況の改善に貢献できたという実感はあったでしょうか。

世取山 茂さん

 UNMITは現在も続けられており、私が派遣されていた期間はそのうちの半年です。しかも、UNPOLは総勢で1,600人を超えていました。そうした中で、PNTLの基本教科書の編纂等、あの時点で我々でしかできなかったことを成し遂げることができたと考えています。今日も続けられている日本警察によるPNTL支援と相まって、現地における日本警察の存在感につながっていると思います。

 当時、PNTLが日本へのODAの要請の仕方が判らないとのことであったので、PNTLのニーズを聴取し、その内容に合った要請書の作成について助言したこともありました。

 日本は、PKOのみならず、例えばJICAを通じた東ティモール警察幹部への研修等二国間での協力も行っていますが、日本の警察の経験やノウハウを、今後、どのような形で国際社会への貢献につなげることができると考えていますか。

 日本警察が国際貢献を行うに当たっては、日本警察が他の国に比べて比較優位を有する分野において貢献していくことが重要であると考えています。具体的には、警察の制度・運用面での改革支援があります。
 国際貢献の方法としては、国連PKOに参加する方法もあれば、アメリカやオーストラリアが東ティモールで行っていたように二国間のODAを通じた方法もあろうかと思います。
 国連PKOにおいても、警察制度改革の企画立案や教育訓練、あるいはその国の将来にわたる警察活動の基盤造りといった分野であれば、指導・助言を通じて日本警察が大いに貢献できると考えています。

 東ティモール等各国で活躍中の我が国の国際平和協力隊員に対して、一言メッセージをお願いします。また、将来、国際平和協力等の分野で活躍することを目指す若者や学生に対して、アドバイスをお願いします。

 私は日本政府から派遣されていたため、日本政府から様々な支援を得て業務に従事しました。しかし、現地での仕事は自分が外国人の上司に仕え、外国人の同僚の中に入って自らやらなければどうしようもない面もあり、まさに実力が試される場面であると思います。私の場合、米国への2年間の留学やその後の犯罪捜査、薬物銃器対策での外国捜査機関との協力業務を通じた経験が東ティモールでの活動に大いに役立ったと感じています。昨今、日本人留学生の多寡について話題に上ることも多くありますが、世界では日本政府や日本人による国際貢献への期待は依然高いものがあると思います。関心がある方は、大いにチャレンジしてみてはいかがでしょうか。

世取山 茂さん

2012年6月15日、山形県警察本部にて
聞き手: 花井 稔、堀川 拓郎
撮 影: 堀川 拓郎

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