栗田千寿:国際平和協力業務に携わる女性たち

国際平和協力業務に携わる女性たち(第5回)

栗田千寿

栗田千寿(くりたちず)
国際平和協力隊員
国連東ティモール統合ミッション軍事連絡要員

  • いま休みが取れたら?
    →実家のある京都でのんびりしたい。
  • 直したくない癖は?
    →ずうずうしいところ?!。
  • 尊敬する理想像は?
    →気軽に頼られる人生経験豊富なおばちゃん。

Q. エスカレーター式キリスト教系の女子校で中学・高校と過ごされ、防衛大学校を志望されていたそうですが。その頃から自衛隊に興味を持たれていたんですか? またなぜ?

地元は京都ですが、小学校卒業式の国旗掲揚、国歌斉唱に反対運動が起きて、式の最中に起立をしない子がいたんです。なぜかと聞いたら、お母さんが立つなと言ったと。私自身もさして愛国心らしきものはなかったんですけれど、自分で考えることなく、疑問を持つこともない行動に、子ども心に『これはちょっとおかしい』と感じました。初めは単純な子どもなりの反発心からですね。それが高3のときは明確に国旗のもとで働けることへの誇りを感じ、自衛隊を志望しました。結局、防衛大学校に受からず、地元の同志社大学で4年間過ごしましたが(笑)。

Q. 私もエスカレーター式の女子校で中、高を過ごしました。クリントン米国国務長官も自伝の中で語っていますが、女子校育ちの方は、周りに男性がいないので、男性に頼ることなく、実際、文化祭の力仕事もみんなで協力してやってしまいますよね。自衛隊は外から見ていると何となく女性、特に自衛官になろうとするようなチャレンジングな女性に対して少し過保護な気がします。例えば女性宇宙飛行士が活躍する時代に女性自衛官が潜水艦に乗れなかったり。

お父さん的なのかもしれません。ただ女性として区別されることには一理あるかと思いますね。

Q. なるほど。ただ、その女性自衛官が守られているというか、そういった状態って変わってくるのでしょうか?

一般幹部候補生は防衛大学校の卒業生と私のような一般大学の卒業生がいるのですが、防衛大学校が女性の学生を受け入れ始めたのが90年度初頭なんです。最初の女性の卒業生は73年度生まれです。そのあたりでは、男性自衛官は同期に女性自衛官もしくは女性の指揮官がいたりする。それ以前の卒業生にとっては、女性自衛官は後輩にしかならないんですね。こういった女性自衛官がヒエラルキーの上に入っていったら、変わってくると思います。

Q. 女性と男性の区別のひとつに肉体的な違いはありますよね。その一方で自衛隊という組織も、組織である以上、肉体労働のみで完結するものではありませんし、女性自衛官の存在意義もあると思いますが。

大学卒業と同時に受けた一般幹部候補生の入隊試験で、女性でもできることではなく、女性だからできることはないかと面接官に問われ、それからは長い自分探しでした。入隊試験で男性は一桁の競争率で自衛官になりますが、女性が自衛官になるのは採用枠が小さいので通常二桁の競争率になるんです。厳しい競争を選び抜かれた女性自衛官は仕事に対する意識がより強く、個人的には語学、情報、広報や会計などに向いていると思います。

Q. これまでにあった女性自衛官皆それぞれに〝ただならぬ″ものを感じましたが、その競争率もひとつの証明かもしれませんね。

また部隊内での励ましなど、女性自衛官の存在意義は母性にもあると思うんです。実際、女性がいる部隊はとても活気がありますし。

栗田千寿

Q. なるほど。またある意味で健全ですよね、社会の構成員である男性と女性が組織で一緒に働くのは。特に国家組織となれば。さて、今回、国際平和協力隊員として、東ティモールの国連PKOミッションへ個人派遣(注1)されますが、女性自衛官としては初の個人派遣です。しかも軍事連絡要員というお役目で。自衛官としての栗田さんは、これまでいろいろなところで女性第1号の記録を塗り替えられてきたのではと想像します。昨年の観閲式でも女性自衛官の部隊指揮官として、280人を率いてパレードされていましたよね(写真右)。女性だからとして取り上げられることに対する違和感ってありますか?

特にはありません。むしろ私が先陣を切ってドアを開ければ後が続くと思ってますので、そういう役目は積極的に果たしたいですね。また、個人的にも女性としての強みを活かして将来は情報分野に進みたいと思っています。今回の国連PKOミッションへの派遣が、次のステップにつながる経験になるよう、頑張りたいと思っています。

栗田千寿

ご結婚されてらっしゃいますが、お二人とも自衛官ですよね。単身赴任が多い中、いっしょに住めたのも結婚5年後と。辞めたいと思った時は?

ありません。キャリアとの兼ね合いで、必ずしも欲しいものが全て一度に手に入る状態ではないかもしれませんが。それに、自衛隊には女性が家を守ってくれているから、(男性自衛官が)いつでも有事の際はかけつけられる、というような組織の理想の家族像があって、うちはその理想像からしっかり離れます(笑)。子どもも欲しいですが、もしできなくてもそのために結婚したわけではないとの意識は二人で共有しています。

栗田千寿




すばらしい! 理想というか、すてきな旦那さんですね。今度もしよかったら、インタビューさせてください(笑)。

(注1)個人派遣:国連PKOなどへの派遣には部隊派遣と個人派遣がある。ハイチの国連PKOミッション(MINUSTAH)には現在330名からなる部隊が派遣されているが、そのうち6名は女性の自衛官。栗田さんは、女性自衛官として日本初の国連PKOミッションへの個人派遣を果たした。

編集後記

〝人生経験豊富なおばちゃん″になりたい。20代後半で副中隊長になった時、服務指導にあたった年上の部下の、奥さんがどうの、子どもの受験がどうのといった、家庭内の悩みが理解できず、早く年を取りたいと思った。単なる勝ち組のストイックさからは一線を画す等身大の栗田千寿さんは、とっても一途。結婚前の名字は土井さん。本人曰く、骨の髄から土井千寿(ドイチズ)、すなわち、ド一途。私服から制服に着替えた彼女。また女性自衛官の新たな歴史がつくられそうな予感がただよう。
右写真は普段の栗田さん。制服の時とがらっと雰囲気がかわる。

2011年3月10日、内閣府国際平和協力本部事務局にて
聞き手:国際平和協力研究員 新野智子

内閣府 Cabinet Office, Government of Japan〒100-8914 東京都千代田区永田町1-6-1
電話番号 03-5253-2111(大代表)