現地からの声:「アジアで最も若い国」東ティモール~連絡調整要員が見た現在の姿と未来への夢~

平成23年8月
東ティモール国際平和協力隊
1等海尉   橋村 仁誉(よしたか)

1 東ティモールってどんな国?

 皆様は「東ティモール」と聞いてどのような認識をお持ちですか? 2006年に起きた暴動のために、未だ「治安が悪い国」という印象の強い方が多いかもしれません。そして「東ティモールってどこ?」という方もいらっしゃるのではないでしょうか。実際、私が赴任する前に国際免許を取得しに赴いた某免許センターの係員は「東ティモールは国ではなくインドネシアの一地方なんですよ」と教えて下さいました。本当にそうなのかなと思ってしまいそうになるくらい、自信たっぷりな感じで。

東ティモールの位置img

東ティモールの位置(「外務省ホームページ」別ウインドウで開きますより)

 東ティモール民主共和国はインドネシアの南東端、小スンダ列島にあり、オーストラリアのダーウィンまで約300キロのところに位置しています。1970年代から続いた長い紛争を経た後、2002年5月20日に念願の独立を果たした21世紀最初の独立国です。四国とおよそ同じ面積の国土に100万人強の国民が暮らしており、首都のディリにそのうちのおよそ20万人が集中しています。 2006年に日本でも大きく報道された暴動の後はUNMIT(国際連合東ティモール統合ミッション)が設立されて秩序の維持等に当たっており、現在治安情勢は安定。アジアの国としてASEAN加盟に向けて国を挙げて取り組んでいるなど、これからどのような発展の道を歩んでいくのか注目していきたい、アジアで最も若い国です。

2 この国の発展のためには

 私はこの東ティモールの首都ディリで4ヶ月間連絡調整要員として勤務し、何カ所かの地方を訪問する機会にも恵まれました。わずかな期間ではありましたが、誕生してまだ間もないこの国が発展に向けた階段を駆け上がっている姿はディリでも、地方でも見て取れました。 しかし発展していくこの国の姿は私に未来への希望と同時にいくつかの課題も見せてくれました。近い将来、UNMITの撤退とともに国連の庇護から離れ、ASEAN諸国の中で、そして世界で名実共に独立国として力強く歩んでいくための課題。私はそれを「教育」「インフラ」そして「旨味」であると考えました。以下、誠につたない私見ながら考えたところを述べたいと思います。

(1)教育

 東ティモール国民の失業率は非常に高く、推定40~50%と言われています。特に若年層の失業率は一際高く、15歳から34歳までの若者の失業率が6割以上とも言われており、深刻な社会問題となっています。ディリ市街の路地端では若者達が昼間からいかにも退屈そうに座り込み、何をするでもなくたむろしている姿をよく見かけます。

ディリ郊外。老朽化したバラック建ての家屋や店舗、そして退屈そうにたむろする若者たちimg

ディリ郊外。老朽化したバラック建ての家屋や店舗、そして退屈そうにたむろする若者たち

 そんな彼らが時として国連車両に投石をしてしまうことがあります。国連の肝煎りで独立して10年、どうして社会(自分たちの暮らし)はなかなか豊かになっていかないのか。自分たちには未だに仕事すらないではないか。そんな彼らの憤懣やる方なさが国連車両への投石というかたちで噴出しているように感じられてなりません。この国の若者はなぜ職に就くことができないのか。若いこの国には、改善点を探す目で見渡せばいくらでも仕事がありそうに思えます。例えば、未だ十分でないインフラの整備、公共施設や住居の建設、農地の開墾、等々。若者が夢と情熱を持って取り組むべき課題は尽きずにあると言えます。

 それでは若者達はなぜこの現状をただ座視しているのか。例えば、同じような境遇の若者達で集まってこの国のインフラ改善のために起業しよう、という気概をどうして持つに至らないのか。様々な理由があるのでしょうが、私はその理由の一つは教育の不足にあるのではないかと思っています。「目標を立て、達成に向けて行動する」ことに先立つ知識や技術が不足しているのではないか。ただ単に怠惰なのでは決してなく、勤勉に働くためのスキルが不足しているのではないかと思うのです。

 この国の国民の約7割が30歳以下の若者で占められています。これら若者達の多くは、独立間もない2000年代に人生で最も教育を受けなくてはならない期間を過ごした者たちです。独立直後、国家として独り立ちしていくための様々な課題が山積している中、東ティモール政府が教育体系を含めた確たる社会システム作り上げる前に2006年の暴動で一時秩序が破壊されてしまったため、せっかく構築され始めた社会システムは崩壊同然に後退してしまいました。

 そんな彼らに将来のこの国の発展の礎となってもらうには教育が必要です。間に合わせの教育ではなく、日本の義務教育のような一からの教育が。自分達が暮らしている東ティモールという国のこれまでと今。未来へ向けた発展の方向性。そしてそのために若者に必要な能力は何なのか。これらを為政者がはっきりと示し、教育に力を入れていくことが必要であると思います。

 最近、政府による教育改革への取り組みが活発化していることが報道等でも見て取れます。この国の未来を支える若者への教育。その充実に向けた施策の成功を切に願ってやみません。

(2)インフラ

 前項でも述べましたが、この国のインフラ整備は未だ十分とは言えません。首都ディリでも上水道普及率はおよそ3分の1、電気の供給も十分とは言い切れません。そんな中私が特に深刻と考えるインフラ問題は道路状況の悪さです。生活道路にくまなく舗装が行き届いているのは首都ディリ市内くらいで、そのディリでも雨期に入ると道路状況は急速に悪化、道路が崩れたり、橋が落ちたり、路面に穴が空いても長期間放置される、ということが各所で起こります。これが地方に行くと更にひどく、舗装されていない道路の方が遥かに多いというのが現状です。地方の村の中には雨期になると孤立、陸路によるアクセス不能というところも存在します。

崖崩れにより封鎖された道路を補修する様子img

崖崩れにより封鎖された道路を補修する様子

 道路整備は国内流通の基盤作りです。国内流通の円滑化は都市と地方の生活格差の緩和につながり、またそのための整備事業は雇用の創出にもつながっていくでしょう。最近の報道でも政府は多額の資金を投入し、熱意を持って道路状況の改善に取り組んでいることがうかがえます。今後更なる改善に期待を寄せたいところです。

 しかしながら先述したように、現状この国の国民が自分たちの手のみで道路を整備していくには、まだまだ技術が不足しているのかもしれません。技術を身につけさせるための教育を精力的に進めていかなくてはならないのは無論のことですが、道路状況の改善は国民の生活改善に、また国民の生命と財産の安全確保にも直接結びつくものであるため、「待ったなしの課題」と言えるものだと思います。 例えば、昨年はこの国の乾期にあたる季節に長雨が降り続き、国民の主食である米の生産に大きな打撃を与えました。今も米価の高騰は収まっておらず、地方の村々では子どもを中心に多くの栄養失調者を出しています。政府は外国米を輸入し、支援米として安価に払い下げる等積極的に対策をとっておりますが、その支援米が道路状況の不良のために円滑に地方隅々まで行き渡っていないのではないかと言われています。

 現状、国民の自力のみで道路状況を改善する技術が不足しているのであれば、今は外資の積極的導入を図るしかないと思います。ではどうすればこの国に多くの外資を誘致し、定着させることができるか。そのためには、この国に外資が資金を投入することによって得られる見返り、「旨味」がなくてはいけません。

(3)この国の「旨味」とは?

 未だ若いこの国の安定的かつ均一な発展のためには様々な分野における外資の導入が必要不可欠だと思います。多くの外資をこの国に定着させるには、彼らの投資に見合うだけの見返りをこの国が与え続けられなくてはいけません。投資の対象として他の国を抑えて、この国を選ぶ「旨味」が必要なのです。それではこの国の「旨味」とは一体なんなのでしょうか。

 この国の就労者の8割は農業を中心とした第1次産業に従事しています。なかでもコーヒーはこの国唯一の輸出用商品作物として日本でも有名で、東ティモール、と聞いてフェアトレードコーヒーを思い浮かべる方も多いのではないでしょうか。このコーヒー栽培の発展については日本も精力的に支援を行っています。首都ディリから南西に車でおよそ3時間行ったところにあるエルメラ県にはこの国有数のコーヒーの生産地があり、そこではピース・ウィンズ・ジャパンという日本のNGOが現地人にコーヒーの栽培について指導をしています。この国の看板製品、コーヒーの栽培が質・量ともに順調な発展を続け、毎年安定して良質なコーヒーが産出されるようになれば、コーヒーの輸出を考える外資がこの国に投資をするのに十分な「旨味」になりうるものでしょう。

 またこの国の南に広がる「ティモール海」には海底油田が存在しています。オーストラリアと共同で開発を進めており、油田から上がる利益の9割が東ティモール、1割がオーストラリアに渡っています。財政支援を除くこの国の歳入の8割は実にこの油田からの収入に占められており(2010年のデータ)、東ティモールの「旨味」というより生命線と呼ぶべきものかもしれません。

 その他にも種々様々な「旨味」がこの国には沢山あるのでしょうが、ここで私が個人的に将来この国の最大の「旨味」となってほしいものについて述べたいと思います。 この国の未来への希望、私がこの国に抱く将来の夢は観光立国化です。つまりこの国のもうひとつの「旨味」は観光資源にある、と考えています。 この国の国土面積は四国と同程度と決して広くはないのですが、離島を含めた国内各地には手つかずの、豊かな自然があふれています。

アタウロ島、海岸のホテル。一応、コテージ風img

アタウロ島、海岸のホテル。一応、コテージ風

 写真はディリから船でおよそ1時間半北に行ったところにある、アタウロ島です。私の写真がつたないためにあまり「楽園感」をお伝えできていないのが残念ですが、海水の透明度は高く、マングローブの森や珊瑚礁も散在し、訪れる観光客にとって格好のダイビングスポットたり得ます。島には本土とは少し違う、古くからの生活スタイルと歴史も息づいており、それらもまた観光客を誘引する魅力の一部となりうるでしょう。例えばフランス領ポリネシアのタヒチやタイのプーケットのように水上コテージを建ち並べ、周辺の観光開発を進めていけば世界的な楽園リゾートとなりうる可能性を秘めていると思います。

アタウロ島の船着場。観光用カヌーや船外機付ボートが並ぶimg

アタウロ島の船着場。観光用カヌーや船外機付ボートが並ぶ

 インドネシアとの国境近く、ボボナロ県にあるマロボ温泉。写真をご覧頂ければ分かるとおり、豊かな水量と長野県の白骨温泉のような湯色。今年8月中旬には日本のJENESYS(21世紀東アジア青少年大交流計画)の温泉開発グループが泉質等の調査に訪れました。きっと何かしら良い効能があるのではないかと期待しています。スーパー銭湯のような充実した温泉施設と、周囲に日本の温泉街のような町並みを作れば多くの外国人観光客を呼び込めるかもしれません。

マロボ温泉。豊富な湯量img

マロボ温泉。豊富な湯量

天然白濁色の湯色img

天然白濁色の湯色

ジャコ島の透明感の高い海img

ジャコ島の透明感の高い海

海中には多くの熱帯魚。サンゴ礁も広がるimg

海中には多くの熱帯魚。サンゴ礁も広がる

 写真は東ティモールの東端に浮かぶジャコ島の澄明度の高い海(「外務省東ティモール大使館ホームページ別ウインドウで開きます」より)。残念ながら私はついに行く機会に恵まれなかったのですが、アタウロ島同様、とても綺麗な海とそこに生息する種々様々な熱帯魚、散在する珊瑚礁等がダイビングや楽園リゾートを目的とした観光客を惹きつけるのではないかと期待できる島です。

 以上、この国の観光立国としての未来に向けた可能性のほんの一部を紹介しましたが、無論、この夢に向かう道筋には希望と同時に課題も山積していることは認識しております。インフラの不良、インドネシアに比べて高い物価、そもそも開発資金をどう捻出するか等、豊かな観光資源を活かしていくための課題は枚挙に暇がありません。またこの国に東アジアや欧米から来る航空便の多くは、世界有数の観光地であるバリやシンガポールを経由します。これら幾多のライバルたちを押さえてこの国に多くの観光客を誘引することは決して簡単なことではないでしょう。しかしながら四国と同じ面積を持つこの国を、楽園リゾートの島にするのは叶わぬ夢ではない、と私には思えてなりません。

3 おわりに

 この国が4ヶ月間、私に見せてくれた発展する姿と発展のための課題。その答えを模索する中でふと思ったことが一つ。誠に稚拙ながらその思いを最後に述べますと、私が本文中でも述べたこの国の若者が持つべき考え方「自分達が暮らしている東ティモールという国のこれまでと今。未来へ向けた発展の方向性。そしてそのために自分たちに必要な能力は何なのか」というものについて。私はこの考え方を人のみでなく国家に当てはめて考えてみました。その結果私は、この考え方は東ティモールのような若い国のみならず、長い歴史と高度な政治経済力を有する老大国であっても共通する、国家が継続的かつ安定的に発展していくためには政府が常に国民に示し続けなくてはならない基本政策のようなものなのではないか、と考えるようになりました。

 人が人生を歩むにあたって、自分は将来どういう人間になっていきたいか。そのために自分は今までの人生で何をしてきたか。それらを踏まえた上で目指した自分になるためには、これから何をしていかなくてはならないか。こんなことは中学生でも考えるようなことではありますが、人はどんなに年を重ねていっても、いつか死ぬその時まで常にこれらを考えた上で行動すべきです。それは人のみならず、人の集合体である国家にも共通するものなのだと思います。至極当然のことであり、読まれた方は「何を今さら」とお笑いになるようなことかとは思いますが。

 末筆ながらその大切さを改めて私に認識させてくれた東ティモールという若い国とこの国の全ての人々に心から感謝しつつ、寄稿文を終えたいと思います。拙文を最後まで読んでいただき、誠にありがとうございました。

(平成23年8月 東ティモールにて)

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