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第28回 和平プロセス(3):和平合意書@PKOなう!

2012年10月12日
国際平和協力研究員
わくがわ いづみ
湧川 いづみ

ネパールにおける和平合意書

 ネパールでは、2006年11月21日に包括的和平合意書(Comprehensive Peace Agreement、以下「ネパールCPA」と略)の調印により和平プロセスが始まりました。2006年以前にも2000年、2003年と二度にわたる和平交渉が行われましたが、対立勢力間の不信感などの要因で失敗に終わりました。ようやく、三度目にして、ネパールCPAが調印され、武器を持って戦っていた対立勢力が、和平プロセスという場で、紛争の政治的解決を目指しています。ネパール和平プロセスは2012年11月で7年目を迎えようとしています。
 ネパールでは、2006年から2011年の5年間に、ネパールCPAを含めて60以上の和平合意書[1]が結ばれました。これほど多くの和平合意書が結ばれてきたのは、とりあえず現状を何とかする為に政府と各団体(政党、新しく形成された武装グループ、人権団体や少数派民族団体など)が政治交渉をし、その結果合意書に署名するという傾向になってしまっているからです。
 そういった現状を踏まえて、多数存在する和平合意書の中でもネパール和平プロセスにおいて最も重要な、ネパールCPAに着目してみましょう

ネパール包括的和平合意書の主な内容

 前回のPKOなう!(第22回)では、「合意書による和平交渉終結は、決して和平プロセスの完結ではありません。交渉の帰結である和平合意は「解決策」ではなく、「ロードマップ」であり、その合意書を実施するという大義が当事者には未だ残されています」と述べましたが、それではそのロードマップであるネパールCPAは一体どのような内容なのでしょうか。
 ネパールCPAは、毛沢東派指導者であるプラチャンダ(本名はPushpa K Dahal)と7連立政党代表のギリジャ・P・コイララによって調印され、1996年から続いてきた内戦の終焉を宣言しました。終戦宣言と共にまず約束されたのは、全ネパール国民が50年代以前から熱望してきた民主化、平和と発展でした。それらの実現のため、ネパールCPAは以下を定めました。[2]

  • 王政の廃止
  • 制憲議会選挙の実施と制憲議会における新憲法の策定
  • 毛沢東派元兵士の武装解除、動員解除および社会復帰と国軍への統合(DDR
  • ネパール国軍の民主化(治安部門改革)
  • 世界人権宣言における人権の尊重

ネパール包括的和平合意書の課題

 ネパールCPAの掲げるロードマップは、和平プロセス6年目の現在、どれくらい達成されたのでしょうか。実は殆ど進展がないのが実情です。ネパールCPAの下で2008年4月10日に実施された制憲議会選挙[3]を踏まえて、2008年5月28日に制憲議会の初会合が開かれたものの、それから4年経過しても結局政治的思惑が入り乱れ、新憲法草案さえも合意されないままに、制憲議会は今年2012年5月27日夜中に失効、解散となりました。[4]
 ネパールCPAの一文では、「CPAに従いこれを実現するための協力は、全政党の任務と責任である」と明記されていますが、任務や責任が果たせなかった場合の、義務の不履行の際の措置に関しては何も定められていません。往々にして、和平合意書の不履行の原因は、政治的意思の弱さ又は欠如だと考えられますが、合意書を作成し署名する当事者たちが敢えて措置に触れずに、和平プロセスが決裂した場合の逃げ道を確保している可能性も否めません。こうした点に鑑み和平合意書には、Enforcement Mechanismと呼ばれる合意書履行を強化するための機能を明記するべきだという意見もあります。[5]
 合意の書履行を確保していくという課題が解決されていない中で、合意書だけを創出しつづけるネパールの和平プロセスから、支援する側として、人々の平和への希求とその実現の難しさの両方を認識し、どのように平和構築に関わっていくのか考えることが求められるでしょう。

[1] 和平合意書とは、和平プロセスに於いて締結される合意書の総称であり、停戦合意書、休戦協定、交渉開始合意書や暫定合意書などを含みます。包括的和平合意書は、停戦合意書によって停戦された後に結ばれる合意書であり、和平プロセスを開始するに当たりいろいろな合意や議定書を総括して一つの文書にしたものです。

[2] From Conflict to Peace in Nepal:Peace Agreements2005-10,ASPECT出版(2011年3月)。ネパール和平合意書の主な47文書を監修。URL:www.aspect.org.np

[3] 我が国からも、PKO法に基づいて選挙監視要員が派遣されています。

[4] 制憲議会の任期は2年間でしたが、憲法草案に時間がかかり、結局最長2年間の任期延長という措置がとられました。しかし、延長された2年間でも草案に対する各政党の合意が得られず、最高裁判所の判断で制憲議会は失効しました。失効の理由として最高裁判所は、制憲議会は国民から2年という任期を課さられ、更に2年間の猶予を得てしても任務遂行できなかった。それは国民の信託を裏切る行為であり、これ以上の任期延長は不適当だという判断からでした。制憲議会の任期や役割などを定めた法的文書は2006年暫定憲法と「Agreement between the Political Parties to Amend the Constitution and to Further the Peace Process」です。(上記、From Conflict to Peace in Nepal参照)

[5] この場合のenforcement mechanismは、法的強制力を持つものではなく、合意書履行に対する協調・協力を促すものです。Ouellet,Julian. “Enforcement Mechanisms.”Beyond Intractability.Eds.Guy Burgess and Heidi Burgess.Conflict Information Consortium,University of Colorado,Boulder.Posted:September2004http://www.beyondintractability.org/bi-essay/enforcement-mechanisms
【参考資料】Yawanarajah,Nita and Julian Ouellet. “Peace Agreements.”Beyond Intractability.Eds.Guy Burgess and Heidi Burgess.Conflict Information Consortium,University of Colorado,Boulder.Posted:September2003http://www.beyondintractability.org/bi-essay/structuring-peace-agree

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