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国際平和協力本部事務局(PKO)
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第45回 DDR(3):社会復帰@PKOなう!

2013年4月19日
国際平和協力研究員
わくがわ いづみ
湧川 いづみ

元戦闘員の社会復帰(Reintegration)の定義

元戦闘員が武装解除・動員解除され、一市民として社会復帰していく一連の過程は、元戦闘員および社会が一体となって紛争の傷を癒していく過程でもあります。一般的にReintegration(リインテグレーション)と呼ばれるDDRに於ける最後の仕上げを、国連は次のように定義しています。「社会復帰とは、元戦闘員が市民としての地位を確立し、就業することによって収入を得、自立するまでの過程である。社会復帰とは、主に社会的・経済的プロセスであり、一定の時間に縛られず、地元コミュニティーにおいて実施される。その過程は、国家開発の一部として位置付けられ、国の責任において実施されるが、しばしば長期的な外部支援が必要となるものである。」[1]

国連による支援: 国連PKO局と国連開発計画

国連の定義からもわかるように、社会復帰は、紛争後の社会復興・再建の主体である当事国が主導します。しかし、紛争の長期化などにより、当該国の脆弱化も著しいことから、国連や国際社会が支援することが多々あります。
国連によるDDRは、実際に多くの国連PKOミッションのマンデートに含まれていますが、国連PKOによる支援は、武装解除(D)と動員解除(D)だけに限られます。[2]社会復帰支援(R)は国連PKOミッションではなく、国連開発計画(UNDP)が主導し支援することが多いのが現状です。この理由のひとつは、国連PKO予算(国連加盟国が義務的に支払う分担金)は、比較的短期間の活動を想定しているため、武装解除(D)と動員解除(D)への予算配分はあるものの、社会復帰支援(R)のような長期にわたるプログラムには充てられないためです。そのため、一連のDDR支援は、国連開発計画(UNDP)と国連PKOが協働して行われています。[3]
また最近の傾向では、社会復帰支援の方法として「コミュニティー・ベースの社会復帰」(英語:community based reintegration)が推奨されています。これは、元戦闘員の社会復帰には、彼らの受け入れ先であるコミュニティー自体が、このプログラムの早い段階から参画しないと、円滑なプロセスが達成できないからです。
DDRプロセスは、紛争の当事者として戦った元戦闘員とその家族などが対象であるため、紛争の犠牲を被った市民には支援がありません。特に社会復帰支援では、職業訓練、起業するための資金、教育の機会などが提供されるため、その支援の対象とならない一般市民やコミュニティーから不平等感や不満がでることが多いです。そういった不満がある中で、元戦闘員が戻ってきても、コミュニティーの心情として受け入れがたいのが現実です。「コミュニティー・ベースの社会復帰」は、そのような状況を考慮した上でコミュニティーにも社会復帰過程に早いうちから参加してもらい、元戦闘員の社会復帰がコミュニティーにもたらし得る利点などを理解することによって、その過程を促進するという目的があります。[4]

ネパール・元マオイスト兵の社会復帰

元マオイスト兵[5]の社会復帰問題は、DDR(2): 動員解除(第41回)」でも触れたように、政治的思惑の中、政治交渉の切り札として扱われたため、意外な結果となりました。
約19,000人の元マオイスト兵のうち、1,444人(うち104名は元女性兵士)がネパール国軍へ統合されることになり、本稿執筆時、ネパール国軍の訓練を受けています。それでは残りの約17,500人の元マオイスト兵はどのような将来を選んだのでしょうか。彼らの社会復帰を支援するため、ネパール平和復興省が管理するネパール平和信託基金(Nepal Peace Trust Fund[6]は、「元マオイスト兵のための社会復帰支援プログラム」を設立しました。このプロジェクトでは、教育、職業訓練、農業従事のためのスキルや起業するための資金援助を受けられます。しかし、実際に社会復帰支援プログラムを選択した元マオイスト兵は、17,500人のうちわずか6名でした。6名の受益者と彼らの帰還先となるであろうコミュニティーを支援するために、この2年間のプログラムには、4.42百万ルピー(日本円約488万円)の予算が充てられています。[7]
残りのうち、13,000人以上は、希望退職(voluntary retirement)を選び、日本円にして各自55万~88万円の退職金を受けとりました。[8]希望退職者がこれほど多くでるという予測はされていなかったため、この現状は財政を圧迫する厳しい結果となってしまいました。[9]
希望退職者がこれほど多かった背景には、マオイスト党指導者が元マオイスト兵士と社会復帰支援関係者(主にネパール政府関係者および国連開発計画)の接触を限定したため、社会復帰支援プログラム立上げの際に、元マオイスト兵士にとって魅力的な支援内容の確立が困難だったことが理由の一つとしてあげられます。このように、DDRとは非常に政治性の高いプロセスであるということが言えます。

DDRのまとめ

これまで、DDRのプロセスの概略をみるとともにネパールでのDDRの現状を紹介しました。本シリーズの纏めとして強調したい点は、DDR実務者が最終的に目指すべきことは「紛争後における人間の尊厳の回復」であるということです。「人間の尊厳の回復」を、DDRという非常に政治性の高いプロセスを通して実現するには、さまざまな問題や困難が横たわります。しかし、これからも、当事国政府を実施主体とし、ドナー、国際社会が一体となって「DDR」に取り組む努力を怠ってはならないのです。

[1]第59回国連総会における事務総長の書簡(Note by the Secretary-GeneralA/C.5/59/31、2005年5月発出。社会復帰定義の和訳は筆者によるもの。

[2]場合により必要があれば、国連PKOは再挿入(reinsertion)という支援も動員解除の一環として行う。

[3]国連は「一貫性を持った支援」 (Delivering as One) を掲げ、各国連機関間で調整することで効率的な支援を推進している。DDR支援においても、統合DDRスタンダード(IntegratedDDRStandard)が2006年に発表され、国連ミッションにおいても統合アプローチを持ってDDRに取組んでいる。スタンダードが不在の時代は、武装解除・動員解除へ支援が集中して社会復帰支援が怠られてしまい、結果として長期的開発につながる支援ができなかったという反省があった。(IDDRS2.10/2.30)

[4]社会復帰に関する参考文献として、United Nations Policy for Post-Conflict Employment Creation,Income Generation and Reintegration, 2009United Nationsがある。

[5]子供兵の社会復帰過程は成人対象のそれとは内容が微妙に異なるため、本稿では、成人の元マオイスト兵の社会復帰に焦点をあてている。ネパールに於ける子供兵(正式名称:Verified Minors and Late Recruits)への支援は、国連開発計画(UNDP)が主導をとり、国連児童基金、国連人口基金および国際労働機関と共同でUNIRPUNInteragency Rehabilitation Programme)を通して支援を行っている。UNIRPのウェブサイト:【http://www.undp.org/content/nepal/en/home/operations/projects/crisis_prevention_and_recovery/unirp/】

[6]ネパール平和信託基金(Nepal Peace Trust Fund)は、ネパール政府平和復興省が主体となりプロジェクトの管理・運営をしているが、8か国のドナーがパートナーとして資金援助を行っている。その8か国とは、アメリカ、イギリス、スイス、デンマーク、ドイツ、ノルウェー、フィンランドと欧州連合である。

[7]世界銀行国別資料(ネパール)参照。
http://www.worldbank.org/en/country/nepal

[8]世界銀行の2011年データによると、ネパールのGNI(Gross National Income)per Capitaは1,260ドルである。しかし、ネパール人口の殆どが月収3万円あれば裕福というのが現実である。

[9]社会復帰支援のプログラムへは、国連関係機関やドナーからの資金援助が付いているが、希望退職金へはドナーの資金がでないため、ネパール政府が全て国家予算から支払う形となった。

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