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第63回 人道法における紛争形態の見分け方@PKOなう!

2013年12月13日
国際平和協力研究員
ながみね よしのぶ
長嶺 義宣

なぜ類型化が重要なのか?

 武力紛争には様々な形態があり、また火種が燻っていても武力紛争にまで達しない状態もあります。人道法は客観的な基準に基づき、紛争の類型化を図ります[1]。なぜそのような基準、類型化が必要なのでしょうか?

人道法は、紛争時(戦時)に適用されるルールですが、紛争の形態により適用される人道法が異なり、国に課せられる義務も変わります。また、国際社会からも様々な影響が及ぼされることが考えられます。それゆえ当該国は武力紛争が存在することをなかなか認めたがらず、紛争の存否判断は自国の裁量内であると解釈しています。このため、各国政府は1949年に初めてジュネーブ条約(批准国:195カ国)において、紛争の客観的な基準を設け、当該国が紛争の存否を恣意的に解釈できないようにしたのです[2]

類型と基準(「法的地位」)

 それでは、その類型と基準を見ていきましょう。人道法では、全ての紛争を次の3分類に限定区分し、法的地位を与えています。(1)国際武力紛争 (2)非国際武力紛 (3)人道法が適用されないその他の暴力を伴う事態[3]。この法的地位は、紛争の状況により、他の法的地位に変わったり、複数の法的地位が併存したりします[4]。通常、(1)と(2)は「上の敷居」、(2)と(3)は「下の敷居」と区別されています[5]

国際武力紛争

 人道法が「国際武力紛争」に適用されるのは、「二以上の締約国の間に生ずるすべての宣言された戦争又はその他の武力紛争の場合」または「一締約国の領域の一部又は全部が占領されたすべての場合」においてです[6]。国際紛争の存否の判断は、当該国による紛争存否の承認の有無にかかわらず、実際に国家間で武力行使が行われたかどうか、という事実状況によります[7]。また、紛争の烈度や持続期を問わず、散発的な武力行為であっても国際武力紛争と見なされます[8]。一方、「武力行使」とは、「実際の敵対行為」があることが前提であるため、過失に基づく侵犯行為や故意によらない発砲は、国際武力紛争の条件を満たしません。また、当該国が第三国に対し、当該国領域内での武力の行使を認めた場合、国際武力紛争とは見なされません。国際武力紛争には1949年のジュネーブ条約[9]、1977年の第1追加議定書[10]及び慣習国際人道法が適用されます[11]

非国際武力紛争

 非国際武力紛争は「国際武力紛争ではない紛争」[12]と定義され、国内における当該国の軍隊と武装集団との間や[13]、武装集団間で生じた武力衝突を指します[14]。非国際武力紛争が存在するとされるには、次の二つの条件が必要です。(1)紛争の烈度が一定の敷居を超えていること[15] (2)武装集団がある程度組織化されていること[16]。(1)の烈度の指標となりうるものは、紛争の持続期、武装行為の頻度、使用される武器の種類、国内非難民の存在、武装勢力による領土の支配、犠牲者の数、国際連合安全保障理事会による討議等考えられ、総合的に勘案されます[17]。(2)の組織化の根拠としては、組織図の存在、明確な指揮命令系統、組織の行動規範の遵守等が挙げられます[18]。非国家武力紛争と判断される場合、ジュネーブ条約の共通第3条、第2追加議定書及び慣習国際人道法が適用されます[19]。非国際武力紛争が領土の一部で行われていても、人道法は全土に適用され、また一時的な停戦では足りず、和平合意や平和的解決をもって初めて紛争が終了したと見なされます[20]

その他の暴力を伴う事態

 前述の「国際武力紛争」「非国際武力紛争」の条件が満たされない場合は、「暴動、騒乱や緊張の事態」と見なされ、人道法ではなく、人権法が適用されます。「暴動」や「騒乱」は法的には定義されていませんが、赤十字国際委員会(以下「ICRC」という)では、広義な交戦に達しない「権力に対する突発的な反乱や集団同士の闘争」と捉えています[21]。「緊張の事態」とは、大規模な逮捕、政治犯罪者の拷問や不公正な法的手続きが当てはまります[22]

最近の動向

 上述通りであるならば、「上・下の敷居」において、法的地位が明確に区別されていることになりますが、実際は曖昧模糊であり、きれいに当てはめるのは非常に困難なのが現実です。それでは、最近どのような事態が問題提起され、どのように結論づけられているか代表的な例を紹介しましょう[23]

まず、武装集団が国境を越え、隣国の同意なしに隣国から当該国に対し攻撃を行う例です[24]。そのような場合、いくら越境があったとはいえ、隣国が武装集団を支持していないため「国際武力紛争」と捉えるのには無理があります。国際武力紛争と判断されると「国家間の紛争」と位置づけられ、武装集団による行為の責任が隣国に転嫁されてしまいます。よって、越境した武装集団に人道法上の責任を負わせるために、非国際武力紛争に適用されるジュネーブ条約の共通第3条が継続適用されるという見解が支配的です。一方、隣国が入国した武装集団を直接支援するとなると、隣国と当該国の間は国際武力紛争と、そして、当該国と武装集団の間は非国際武力紛争という、二つの構造が併存することになります。

 次は、国内武力紛争で、当該国や武装集団が外国からの支援を受ける例です。外国の部隊が当該国の政府を支援する一環で、当該国領域内で武装集団と対抗する場合、外国の部隊はあくまでも当該国を「代行する」という解釈から、「国際武力紛争には達しない」とされます。一方、武装集団が外国による直接な支援を受ければ、「国内武力紛争が国際化」[25]され、国際紛争に伴う人道法の諸規定が適用されることになります。この場合でも、外国が金銭や物資の支援に加え、指揮命令系統に直接関与していることが条件とされます[26]。このように、国際武力紛争と非国際武力紛争を区別する「上の敷居」の判断は越境行為という地理的要素ではなく、紛争当事者に係る特徴に依拠するようになってきているようです。

誰が判断するのか?

 紛争の存否や類型化の判断は誰が行うのでしょうか?国連憲章39条は安全保障理事会に「平和に対する脅威、平和の破壊又は侵略行為の存在を決定する」権限を付与します。しかし、ここで言われる「平和に対する脅威」「平和の破壊」「侵略行為」は、国連憲章2条4項で言及される「武力による威嚇又は武力の行使」と必ずしも同義ではありませんし、武力行使を伴わない事態も含まれます[27]。また安全保障理事会が政治的な機関である以上、その解釈が理事国の政治的思惑と無縁だとは言い切れません[28]

 ICRCの専門家は、定期的に各国や地域の法的地位を分析し、紛争が存在すると判断された場合には、紛争当事者に法的解釈を提示し、人道法上課される義務を喚起しています。しかしこの見解は、あくまで、ICRCという一国際機関の見解であり、拘束力を帯びるものではありません[29]。現時点では、国家主権を超越する主体は存在しないことから、最終的には各国にその判断が委ねられているのが現状です。しかし、そうであったとしても、国の裁量は無制限ではありえず、慣習や諸国際裁判所の判決を通じて発展してきた法的解釈を踏まえた上で、慎重に、人道法を適用する必要があるでしょう。

 

 

 

[1]「人道法」は「武力紛争法」や「戦時国際法」と同様

[2]Vite, Sylvain, "Typology of armed conflicts in international humanitarian law: legal concepts and actual situations," International Review of the Red Cross, 91 (873), (March 2009).p.72

[3]ICRC, "How is the Term "Armed Conflict" Defined in International Humanitarian Law?," Opinion Paper: Geneva, March 2008.国際連合憲章では「戦争」は法的には存在しないことになっており、また「戦争」は「対テロ・麻薬戦争」等、武力行使が伴わない広義の意味で解釈されることもあるため、人道法は通常「戦争」より「武力紛争」を用いる

[4]Dinstein, Yoram, The Conduct of Hostilities under the Law of International Armed Conflict, New York: Cambridge University Press, 2008.p.14f.

[5]‘Upper threshold’ (上の敷居)‘Lower threshold’ (下の敷居) Pictet, Jean, Commentary on the Additional Protocols I and II of 8 June 1977, ed. International Committee of the Red Cross, (ICRC), Geneva: Martinus Nijhoff Publishers, 1987.para 4451

[6]1949年ジュネーブ条約共通第2条

[7]同上; 旧ユーゴスラビア国際戦犯法廷も「国家間で武力が行使された場合、国際武力紛争が存在する」と言及する。ICTY, Prosecutor v. Tadic, Case No.IT-94-1, Decision on the Defence Motion for Interlocutory Appeal on Jurisdiction, 2 October 1995, para 70

[8]Pictet, Jean, Geneva Convention I for the Amelioration of the Condition for the Wounded and Sick in Armed Forces in the Field: Commentary, Geneva: ICRC, 1952.p.34; Schindler, D., "The Different Types of Armed Conflicts According to the Geneva Conventions and Protocols," The Hague Acdemcy Collected Courses, 63, (1979).p.131

[9]防衛省による邦訳:http://www.mod.go.jp/j/presiding/treaty/geneva/index.html

[10]外務省による邦訳:http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/k_jindo/giteisho.html

[11]Henckaerts, Jean-Marie「慣習法」International Review of the Red Cross, 2005年3月第87巻857号(邦訳)http://www.icrc.org/eng/assets/files/other/jap-irrc_857_henckarts.pdf

[12]ジュネーブ条約共通3条は非国際紛争を「領域内に生ずる国際的性質を有しない武力紛争」と定義する。

[13]ジュネーブ条約 第2追加議定書 第1(1)条

[14]ジュネーブ条約共通3条は「各紛争当事者」と定め、正規軍か武装集団か特定せず、上述の追加議定書より広範の定義を用いる。

[15]ICTY, Prosecutor v. Tadic, Case No.IT-94-1, Decision on the Defence Motion for Interlocutory Appeal on Jurisdiction, 2 October 1995, para 70

[16]ICTY, Prosecutor v. Boskoski, Case No.IT-04-82, Judgment (Trial Chamber), 10 July 2008, para 199-203; ICTY, The Prosecutor v. Fatmir Limaj, Judgment, IT-03-66-T, 30 November 2005, para 94-134; ICTY, Prosecutor v. Ramush Haradinaj, Case No.IT-04-84-T, Judgment, 3 April 2008, para 60

[17]ICTY, Prosecutor v. Boskoski, para 177; 詳しくはICTY, The Prosecutor v. Fatmir Limaj, para 135-170. を参照

[18]注16を参照

[19]厳密に言えば、第2追加議定書は正規軍と武装集団の間での紛争であること且つ、武装集団が領域の一部を支配していることが適用の条件である。(第1(1)条)詳しくは山田寿則.「内戦における戦闘の方法手段に関する国際人道法の諸規則」明治大学大学院紀要31集94(2)を参照

[20]ICTY, Prosecutor v. Tadic.また Kunarac et al. Appeal Judgement, para 56-57; Kordić and Čerkez Appeal Judgement, paras 319, 336.を参照

[21]ICRC, "Protection of Victims of Non-International Armed Conflicts," Vol.V: Geneva, 24 May -12 June 1971.

[22]Eide, A, "Internal Disturbances and Tensions," International Dimensions of Humanitarian Law, UNESCO: Paris, 1988. Pp.279-295

[23]ICRC, "International Humanitarian Law and the challenges of contemporary armed conflicts," 31st International Conference of the Red Cross and Red Crescent Geneva, 28 November - 1 December 2011. 31IC/11/5.1.2. Pp.7-13を参照。他にも多国籍集団や国際的犯罪組織の例も大変興味深い。

[24]例として、2006年にヒズボラがレバノンからイスラエルを攻撃したことが挙げられる。

[25]英語では “internationalization of internal armed conflict”

[26]「軍事行動の企画、調整や運営を含む包括的な指揮(overall control)」ICTY, Prosecutor v. Tadic, para 137, 120, 131を参照; Stewart, J.G., "Towards a Single Definition of Armed Conflict In International Humanitarian Law " International Review of the Red Cross, 85 (850), (2003).Pp.323ff.

[27]Kelsen, Hans, The Law of United Nations, New Jersey: The Lawbook Exchange Ltd., 2000.p.727f.

[28]Wellens, Karl, "The UN Security Council and New Threats to the Peace: Back to the Future," Journal of Conflict & Security Law, 8 (1), (2003).Pp.17-21

[29]Vite, "Typology of armed conflicts in international humanitarian law: legal concepts and actual situations."p.94

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