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国際平和協力本部事務局(PKO)
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第79回 国際刑事裁判所(3):管轄権行使のメカニズム/安保理@PKOなう!

2014年10月10日
国際平和協力研究員
ふじい ひろしげ
藤井 広重 

管轄権行使のメカニズム

 国際刑事裁判所(International Criminal Court: 以下ICC)が裁判を始めるにあたって、ローマ規程第13条[1]には三つの手続き(締約国による付託、国連安全保障理事会(安保理)による付託、検察官の自己の発意)が定められています。これらを、管轄権行使のトリガーメカニズムと呼んでいます。国内の司法制度とは異なり、警察権を持たないICCにとって、このトリガーメカニズムは非常に重要な意味を持っています。例えば、これまでに設置された国際刑事法廷の多くは、国際人道法に反する行為の引き金となった紛争が、終結に向かった後に設置されたことに対し、ICCは紛争終結後だけではなく、継続中の紛争にも介入することが予定されています。このため、検察官はその活動の性質上、政治的意図を排除し、法に従って適正に手続きを開始しなければ、ICCが紛争の道具として、政治的に利用される恐れがあり、独立性・公平性が損なわれてしまいます。そこで今回の@PKOなう!では、三つのトリガーメカニズムの一つである安保理とICCの関連性について紹介します。

安保理による付託

 安保理は、PKOの運用において非常に重要な役割を担っており(第48回@PKOなう!及び(第53回@PKOなう!参照)、ICCとの関係においても、事態の付託そして捜査・訴追の延期といった側面において重要な役割を担っています。この点、国際刑事司法と政治的機関である安保理との関係性については、まだまだ議論が必要な分野ではありますが[2]、安保理はこれまでにも国連憲章第7章下で旧ユーゴスラビア国際刑事法廷[3]及びルワンダ国際刑事法廷[4]を設置し、またレバノン特別法廷[5]の設置にも貢献し、「国際の平和と安全及び安全の維持に関する主要な責任」を負う機関として国際刑事司法の発展と実現に欠くことのできない働きを示してきました。このため、国際法委員会による1994年ローマ規程草案の段階から提起されていた「安保理によるICCへの付託」は、同規程成立に向けた議論の過程でも特段の変更を加えられることなく、同規程第13条(b)として成立しました。

 ローマ規程第13条(b)は、「国際連合憲章第7章の規定に基づいて行動する安全保障理事会がこれらの犯罪の一又は二以上が行われたと考えられる事態を検察官に付託する場合」に事項的管轄権(第74回@PKOなう!参照)を行使することができると定められています。また、国連との合意文書[6]の17条にも、安保理とICCの関係についてより具体的に定められています(第73回@PKOなう!参照)。そして、これらに基づき、安保理はこれまで2005年にスーダン(ダルフール地方)[7]及び2011年にリビア[8]の事態を付託しました[9]。ここで重要なことは、安保理決議であっても、個人が特定できる事件(case)ではなく、事態(situation)を付託しなければならないということです。これはICCによる介入が、特定の個人や組織を狙い撃ちにした一方的な訴追であってはならず、あくまでもローマ規程に則って、独立性及び公平性の下、検察官が付託された事態の捜査を開始し、最終的に違反行為を特定し訴追を行う、といった政治的な介在を排除した一連の司法手続きに従うことにより、ICCの正統性を担保することに狙いがあります。

安保理による捜査・訴追の延期

 安保理がICCで果たすもう一つの役割がローマ規程第16条に規定されている「捜査又は訴追の延期」です。同条は、安保理が国連憲章第7章に基づいて、ICCにおける捜査や訴追の手続きを停止することを可能にすると定めており、現在は期限切れとなりましたが、同条に関する初めての安保理決議が、ローマ規程の非締約国出身の平和維持要員に対する捜査及び訴追の停止を要請した決議1422です[10]。この決議は、2002年7月より12ヵ月間、安保理により承認された国連PKO及び多国籍軍等の活動に参加するローマ規程非締約国からの要員については、ICC規程第16条に従って、安保理が別段の決定を行わない限り、捜査又は訴追を開始しないよう要請しており、米国の主導により採択されました。2003年には同決議の12ヵ月間の延長が決定[11]されましたが、同16条は、特定の事態や捜査、並びに国連憲章第7章下の「平和に対する脅威、平和の破壊又は侵略行為」の存在を予期していることから、本来の同16条の趣旨とは異なる同決議に対し多くの批判がありました。また、2004年には同決議の主導的役割を果たしていた米国自身がイラクやグアンタナモ収容所での人権侵害が指摘されたことも重なり、同決議は延長されずに期限切れとなりました。

 なお、2014年10月現在、スーダン共和国のバシール大統領並びにケニア共和国のケニヤッタ大統領及びルト副大統領の裁判を巡って、アフリカ連合より同16条が両裁判にて適用されるべきであるとの主張がなされています[12]。しかしながら、これまでのところ、同16条が具体的な事例に適用されたことはありません。

 

 最後に安保理とICCの両者が現在直面している課題の一つについて指摘したいと思います。ICC検察官は2014年6月に安保理会合に出席し、ダルフールの事案を調査している検察局とUNAMID(国連 AU ダルフール合同ミッション)の情報との整合性に問題があると述べました[13]。ICCは未だ、2009年に発布されたバシール大統領への逮捕状も執行できておらず、本件は安保理による付託にも関わらず、安保理からは十分な協力を得られていないといったジレンマに陥っています。そのため、ダルフールを巡る今後の展開は、ICCと安保理との関係をより明確に捉え、又は捉え直すうえでの試金石になると思われます。

 次回の@PKOなう!では締約国による付託と検察官の自己の発意に基づく捜査について、これまで検察局が取り組んできた訴追戦略を通して、紹介いたします。

 

[1] 外務省「国際刑事裁判所に関するローマ規程」全文http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/treaty/pdfs/treaty166_1.pdf, last visited (10 October 2014).

[2]  See, Daphna Shraga, Politics and Justice: The Role of the Security Council, Antonio Cassese (ed.), The Oxford Companion to International Criminal justice (2009). Jackson Nyamuya Maogoto, War Crimes and Realpolitik: International Justice from World War I to the 21st Century, 2004.

[3]  UN Doc. SC/RES/827 (1993).

[4]  UN Doc. SC/RES/955 (1994).

[5]  UN Doc. SC/RES/1757 (2007).

[6]  Negotiated Relationship Agreement between the International Criminal Court and the United Nations, The ICC official website, available at  http://www.icc-cpi.int/NR/rdonlyres/916FC6A2-7846-4177-A5EA-5AA9B6D1E96C/0/ICCASP3Res1_English.pdf , last visited (6 October 2014).

[7]  UN Doc. S/RES/1593 (2005).

[8]  UN Doc. S/RES/1970 (2011).

[9]  2014年5月にはシリアの事態をICCに付託するための決議案が仏によって提起されましたが、中・露の拒否権が発動されたことにより否決されました。

[10]  UN Doc. S/RES/1422 (2002).

[11]  UN Doc. S/RES/1483 (2003).

[12]  AU Doc. Assembly/AU/ Dec.334(XVI), 31 January 2011.

[13]  UN.Doc. S/PV.7199 (2014).

 

 

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