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第85回 シリアにおける迫害の状況と難民流出@PKOなう!

2015年4月17日
国際平和協力研究員
いたがき ふみこ
板垣 文子

国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)によって「今世紀最大の人道危機」とも形容されるシリア紛争は、今年3月で5年目に突入しました。UNHCRの統計では、2015年3月末現在で周辺国に約395万人の難民が流出[1]、中東に比較的近いヨーロッパでは2014年末までに22万人が庇護を求めました[2]。今回の@PKOなう!では、政府と反政府勢力間の紛争により大量の難民が発生している背景を探り、シリアの人々がどのような迫害を受けてきたのか、具体的な事例を紹介しながら考えていきます[3]

事例1 ダラア郊外のTafas町への掃討作戦と爆撃

シリア紛争の特徴の一つとして、反政府勢力に共鳴したり、その戦闘員を匿っているとみなされた町や村、近隣地域に住む市民が、政府軍によって頻繁に標的とされていることが挙げられます[4]。民衆蜂起の発端となった南部ダラア県では、2011年3月以降、政府軍と治安部隊がダラア市内とその周辺都市・村を次々に封鎖して食糧及び日用品の入手を阻止し、水タンクやパイプを破壊し、外出禁止令に背き外を出歩いた住民を狙撃したと言われています[5]

ダラア市の北11kmに位置するTafas[6]を例に挙げてみますと、Tafasでも政府への抗議活動が起こり、参加者はダラア市内で二週間以上続いた封鎖[7]を突破しようと試みましたが、5月上旬には治安部隊がTafasに突入しました。住民の話では、朝方銃声が聞こえたかと思うと、治安部隊が戦車60台と共に進軍し、屋根に上った狙撃兵が市場から逃げようとした人々を狙い、1人が死亡、女性を含む4人が負傷、町の西側のYarmuk谷に脱出しようとした数百名の市民も治安部隊に追跡され、2人が殺害されました[8]。その後数日間にわたる大規模な掃討作戦では、家々に押入った治安部隊に1000人近くが逮捕され、その内約600人は一週間以内に釈放されましたが、新たな逮捕も続き、反政府活動家だけでなく、75歳になる活動家の父親や息子の家族、抗議活動に参加した事が無い者までが標的となったと言われています[9]。このように、特に反政府活動に関わっていなくても、治安部隊の突入時にTafasに居合わせた市民が、逃れようとして銃撃されたり逮捕されたりしています。

報告によると、2012年11月半ば以降Tafasは激しい爆撃を受け、一度に推定260~350発の爆弾が住宅地に撃ち込まれて数百名の市民が死傷しました。その中には、12月半ばに市場の人混みに落とされた砲弾2発で死亡した子どもを含む10人以上の市民や、12月末の爆撃で死亡した市民13人と負傷者80人以上も含まれます[10]。11月末には地上戦が始まり、Tafasに進攻した治安部隊と政府系民兵によって多くの家屋と商店が焼かれ、12月末には負傷した自由シリア軍のメンバーが治療を受けていると疑われた病院が爆撃されました[11]。2014年前半にもTafasは激しい砲撃にさらされ、特に商店街や市場が空爆を受け[12]、同年6~8月のロケット弾や樽爆弾による無差別攻撃でも多くの市民が死亡しています[13]。反政府勢力の支配下にあったTafasは繰り返し無差別攻撃を受け、反政府組織の戦闘員だけでなく、多くの市民が犠牲となりました。

また、ダラア各地の政府検問所において、反政府支持者とみなされた男性や少年が逮捕・虐待されるケースが相次いでいましたが、2013年7月にはダマスカスの検問所にて、身分証明書からダラア居住歴が判明した女性も逮捕されています[14]。この他にも、反政府勢力の掃討作戦における家宅捜索で子どもを含む市民が殴打・処刑され、家屋が放火・略奪されたり、小学校が爆撃されて生徒が死傷する等、ダラア各地で子どもを含む市民が標的となる実態が報告されています。

事例2 ダマスカス近郊の東Ghouta地域への包囲攻撃

次に、2012年後半から現在まで政府軍による包囲攻撃が続いているダマスカス近郊の東Ghouta[15]の状況を見ていきましょう。東Ghouta地域の一都市であるDoumaでは、2011年4月に大規模な抗議活動が行われると、治安部隊が取り囲んで検問所を設置し、一軒毎に家宅捜索を行ない、男性数十名が逮捕されました[16]。2012年後半に東Ghoutaで政府軍と反政府武装組織の衝突が続き、包囲攻撃が開始されると、激しい空爆で多くの市民が死傷し、狙撃されて病院に運び込まれる市民も続出しました[17]。2013年7~8月には東Ghoutaの農地と農作物が砲撃で焼かれる一方で包囲も厳しくなり、道路封鎖と検問所における食糧・燃料・医薬品の組織的な没収により、住民は兵糧攻めに苦しみました。一年以上肉や新鮮な野菜無しの生活を余儀なくされた女性の話では、食糧の持込みを図る者は誰でも反政府支持者と疑われ、Al-Maliha検問所でパンを服の下に隠し持っていた女性が拘束、Douma検問所で家族のために食糧を運んでいた女性が警備員から嫌がらせを受けました。また、検問所を避けて東Ghoutaに出入りしようとする人は狙撃されました[18]。ダラアの事例と同様に東Ghoutaにおいても、戦闘年齢の男性・少年の多くが家宅捜索中や検問所通過の際に恣意的に逮捕・殺害されたため、女性が家族を養うために危険を冒して外に出ることも増えましたが、食糧の持込みを図る者は誰でも反政府支持者とみなされ、検問所で不当な取扱いを受けています。

2013年9~10月には、東Ghoutaは人口密集地にもかかわらず政府軍による連日の激しい空爆にさらされ、病院にも砲弾が落とされました[19]。10月初めには野菜の代わりにひき割り小麦や米、木の葉で飢えをしのぎ、小麦袋を包帯の代用にしたとの証言もありました。更に、救急患者や慢性疾患を抱える住民でさえ、治療のため外に出ることが禁じられたため、死亡する人もいました[20]。包囲攻撃の影響で、母親が栄養失調になり授乳できずに新生児が死亡するケースや、病気や怪我をした子どもが治療を受けられずに亡くなったという報告もあります。

東Ghoutaの状況を時系列順に追っていくと、2011年の民衆蜂起以降、政府軍による包囲と爆撃が繰り返され、後述のように2014年に入っても毎月のように攻撃を受ける一方で、人道支援物資の輸送妨害も報告されています:2014年1月のArbinとDoumaへの樽爆弾投下で多くの市民が死亡[21]、3~9月のHamoryahへの砲撃で人道状況は更に悪化し避難民が続出、7~9月の東Ghoutaの病院を標的とした戦車や樽爆弾による組織的空爆、10月には近くに軍事目標が無いにもかかわらず、Hamoryahの市場が空爆され多くの市民が死傷[22]、12月以降もDoumaとHamoryahへの空爆が続き、Hamoryahへの二度の空爆で民家が破壊され8人死亡・数十名負傷、2015年1月地対地ロケットによるGhoutaへの爆撃等が挙げられます[23]。東Ghoutaから脱出した家族の母親の話では、7歳・5歳・4歳の3人の息子のうち、包囲攻撃による栄養失調で上の二人はやせ衰え、末っ子は未だに爆撃の悪夢に悩まされています[24]

東Ghoutaを取り囲む検問所には政府軍の第4師団や共和国防衛隊等の精鋭部隊が配置され、食糧を求めて脱出を試みる市民への攻撃が続き、2013年12月には検問所からの発砲で少なくとも30人が死亡、2014年4月には14歳の少年が射殺されました[25]。同年2月には指名手配中の男性の母親と妹が逮捕され、二人の殺害予告のため男性は出頭を余儀なくされました[26]。3月には東Ghoutaを脱出してダマスカスを目指した男性が、武装組織とは関係が無いにもかかわらず、Hamoryahの政府検問所にて拘束された後に消息を絶ち、8月には急病で脱出を試みた72歳の男性が、同伴していた娘の嘆願も空しくDouma付近の検問所で逮捕され行方不明となっています[27]。東Ghouta出身であれば、子どもや女性、高齢者であっても、武装組織とは関わりが無くても、政府当局に狙われて逮捕され行方不明になったり、殺害されています。

国連安全保障理事会に提出された最新の報告書によると、2015年3月現在で16万3500人が包囲下にある東Ghoutaへの爆撃は続いており、2月にはDoumaで樽爆弾や真空爆弾による無差別爆撃が行われた事もあり、推定300人以上の市民が死亡しています[28]

町や村、近隣地域に属しているだけで、「反政府」とみなされ迫害される

Tafasや東Ghoutaの事例で見られたような政府当局による迫害は、反政府勢力を支持しているとみなされている他の町や村、近隣地域でも同様に起きているため、大量の難民や国内避難民が発生しているのです。これまでに紹介した迫害事例の他にも、激戦地の一つとなったシリア中部のホムス市[29]では、2012年3月には子どもが学校から誘拐され政府軍と一緒に行進させられ、同年4月には市内のDeir Baalbehに突入した政府軍が、自由シリア軍の反撃に備えて女性と子どもを表通りに出し戦車の前に並ばせる等、市民が人間の盾にされたとの証言があります[30]。同年7月にはホムスで抗議活動参加者の捜索中に14歳の女の子が当局に逮捕され、半年以上拘束されて強姦され、同年8月には反政府勢力が占拠していたBaba Amr地区で地上戦が行われ、多くの若い女性が強姦されたと報告されています[31]

UNHCRでは、このようなシリア紛争の特徴と迫害状況をふまえて、シリアの人々は、親族、部族、宗教や民族集団のみならず、町や村、近隣地域を含むより大きな集団への所属を理由に、ある一定の政治的意見を持つとみなされ迫害を受けることが多々ある、との見解を出しています。シリアの人々は、迫害者によって個別に把握されていなくても、これらの集団に属しているだけで、迫害者の敵対勢力を実際に支持するか、支持しているとみなされて、標的にされてしまうのです[32]

これまでに取り上げた事例から明らかですが、政府軍や政府系民兵は紛争開始当初から、反政府とみなされた町や村、近隣地域を組織的に包囲して食糧・医薬品・水・電気の供給を制限することで、十数万人もの住民を戦闘の巻き添えにしています。これらの町や村、近隣地域の住民は誰でも、反政府活動や武装組織と無関係であっても、その場所に居合わせるか、またはその出身者というだけで反政府支持を疑われて逮捕・虐待・殺害され、度重なる無差別爆撃と兵糧攻めの犠牲となります。また、脱出したり食糧を手に入れようとすると狙撃され、検問所で拘束され行方不明になっています。今回は政府側による迫害に着目しましたが、シリアで活動している様々な反政府武装組織も、親政府とみなされた町や村、近隣地域への包囲攻撃を行ない、市民を迫害しています。

UNHCRによると、国際保護を求める殆どのシリア人は、政府当局もしくは、数ある反政府勢力のどれか一つと直接的または間接的に関わっているか、つながりがあると認識されているため、これらの組織と政治的意見を共有しているとみなされて迫害を受けるおそれがあり、1951年難民条約に基づく条約難民である可能性が高いのです[33]

 

[1] UN High Commissioner for Refugees (UNHCR) [Source - UNHCR, Government of Turkey], Registered Syrian Refugees: 3,950,438, Last Updated 26 March 2015, available at: http://data.unhcr.org/syrianrefugees/regional.php [accessed 30 March 2015]

[2] UNHCR [Data for 38 European countries which provided monthly data to UNHCR], Total Syrian Asylum Applications in Europe: 222.225 between April 2011 and December 2014, available at: http://data.unhcr.org/syrianrefugees/regional.php [accessed 30 March 2015]

[3] 主な情報源として、人権侵害の被害者や目撃者へのインタビューから直接得られた情報に基づいて作成された、国連の独立国際調査委員会の報告書を使用します。今般の報道ではシリアで活動する様々な武装組織が取り上げられていますが、今回は政府の軍や治安部隊、政府系民兵等の政権側による迫害に着目していきます。尚、日本のメディアで頻繁に取り上げられる首都・県・主要都市名についてはカタカナ表記、それ以外についてはアルファベットにて表記します。

[4] UN Human Rights Council, Report of the Independent International Commission of Inquiry on the Syrian Arab Republic, 4 June 2013, A/HRC/23/58, paras 143-145, available at: http://www.refworld.org/docid/51aee9484.html [accessed 31 March 2015]

[5] UN Human Rights Council, Report of the independent international commission of inquiry on the Syrian Arab Republic, 23 November 2011, A/HRC/S-17/2/Add.1, paras 49 & 82, available at: http://www.refworld.org/docid/4edde9d02.html [accessed 31 March 2015]

[6] 次の報告書にTafasを含むダラア県の地図が掲載されています(表紙から数えて5枚目):Human Rights Watch, "We've Never Seen Such Horror," Crimes against Humanity by Syrian Security Forces, 1 June 2011, 1-56432-778-7, available at: http://www.refworld.org/docid/4dec92f22.html [accessed 31 March 2015]

[7] BBC, Syria tanks 'shell' protest city of Homs, 11 May 2011, available at: http://www.bbc.co.uk/news/world-middle-east-13358201 [accessed 31 March 2015]

[8] Human Rights Watch, supra, n. 6, p. 26.

[9] Ibid, pp. 35, 40, 47.

[10] UN Human Rights Council, Report of the independent international commission of inquiry on the Syrian Arab Republic, 5 February 2013, A/HRC/22/59, Annex XI, paras 42-43, available at: http://www.refworld.org/docid/513727e62.html [accessed 1 April 2015]

[11] Ibid, para 154, Annex XII, para 15, Annex XIII, para 9.

[12] UN Human Rights Council, Oral Update of the Independent International Commission of Inquiry on the Syrian Arab Republic, 16 June 2014, A/HRC/26/CRP.2, paras 15 & 57, available at: http://www.refworld.org/docid/53a033004.html [accessed 1 April 2015]

[13] UN Human Rights Council, Report of the Independent International Commission of Inquiry on the Syrian Arab Republic, 5 February 2015, A/HRC/28/69, Annex II, paras 50 & 225, available at: http://www.refworld.org/docid/54e74b777.html [accessed 1 April 2015]

[14] UN Human Rights Council, Report of the independent international commission of inquiry on the Syrian Arab Republic, 12 February 2014, A/HRC/25/65, para 36, available at: http://www.refworld.org/docid/53182eed4.html [accessed 2 April 2015]

[15] 東GhoutaにはAl-Maliha, Arbin, Douma, Ein Terma, Hamoryah, Harasta, Jisreen, Kafr Bartna, Saqba, Zamalka等が含まれます。次の報告書12頁に東Ghouta地域とその中の諸都市の地図が掲載されています:UN Security Council, Report of the Secretary-General on the implementation of Security Council resolution 2139 (2014), 24 March 2014, S/2014/208, available at: http://www.un.org/en/ga/search/view_doc.asp?symbol=S/2014/208 [accessed 2 April 2015]

[16] Human Rights Watch, supra, n. 6, pp. 9-11.

[17] UN Human Rights Council, supra, n. 10, Annex XI, para 53.

[18] UN Human Rights Council, supra, n. 14, paras 53, 133-134.

[19] Ibid, paras 90 & 108.

[20] Ibid, para 134.

[21] Ibid, Annex VI, para 40. UN Human Rights Council, Report of the independent international commission of inquiry on the Syrian Arab Republic, 13 August 2014, A/HRC/27/60, para 122, available at: http://www.refworld.org/docid/53fed8134.html [accessed 3 April 2015]

[22] UN Human Rights Council, supra, n. 13, Annex II, paras 8, 246, 261.

[23] UN Security Council, Implementation of Security Council resolutions 2139 (2014), 2165 (2014) and 2191 (2014) : Report of the Secretary-General, 22 January 2015, S/2015/48, paras 6 & 8, available at: http://www.refworld.org/docid/54ca29d74.html [accessed 6 April 2015]

[24] UN Human Rights Council, supra, n. 13, Annex II, para 191.

[25] UN Human Rights Council, supra, n. 21, para 27, Annex IV, paras 5 & 61.

[26] Ibid, para 40.

[27] UN Human Rights Council, supra, n. 13, Annex II, paras 107 & 108.

[28] UN Security Council, Implementation of Security Council resolutions 2139 (2014), 2165 (2014) and 2191 (2014) , 23 March 2015, S/2015/206, paras 8 & 48, available at: http://www.refworld.org/docid/5514009f4.html [accessed 2 April 2015]

[29] ホムス市は前掲15の地図に掲載されています。

[30] UN Secretary-General (UNSG), Report of the Secretary-General on children and armed conflict in the Syrian Arab Republic, 27 January 2014, S/2014/31, para 17, available at: http://www.refworld.org/docid/52f222744.html [accessed 8 April 2015]

[31] Ibid, para 36.

[32] UNHCR, International Protection Considerations with regard to people fleeing the Syrian Arab Republic, Update III, 27 October 2014, para 12, available at: http://www.refworld.org/docid/544e446d4.html [accessed 6 April 2015] 日本語仮訳は以下を参照:UNHCR、「シリア・アラブ共和国から避難する人々の国際保護の必要性について 更新III」、2014年10月、12段落、http://www.unhcr.or.jp/protect/pdf/UNHCR_Syria_Update_III_102014.pdf [参照2015年4月7日]

[33] Ibid, para 26.

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