第98回 2017年の安保理とPKO

2018年3月29日
国際平和協力研究員
にしむら しょうじろう
西村 正二郎

  これまで2回の寄稿では、国連安保理について国連PKOについて執筆しましたので、今回は両者を合わせて、安保理とPKOを巡る昨年2017年の主な動きを振り返ってみます。2017年の安保理とPKOに大きな影響を与えたのは、何と言ってもグテーレス国連事務総長の就任とトランプ米政権の誕生です。これにより事務局や安保理の活動が様変わりした面もあります。以下では、事務総長による取組、安保理での議論、そして要員の安全対策について書いてみます。

国連と米国での新体制の登場

  まずはグテーレス事務総長について。事務総長というポストは、国連主要6機関の1つである事務局のトップで、国連設立から70年以上を経た現在でもまだ9人しか務めていません。その交代が行われた昨年は、必然的に国連に大きな変化をもたらしました。グテーレス事務総長は就任早々、「紛争予防」と「持続的な平和」を、平和と安全の分野でのキーワードとして打ち出しました[1]。1月に事務総長がその立場で初めて出席した安保理公式会合の議題が、この2つをテーマとするものだったことは、ある意味象徴的と言えるでしょう[2]

  グテーレス事務総長(UN Photo)

  事務総長はまた、国連は「機敏・効率的・効果的」であるべき、という考えも強く打ち出し[3]、PKOについてもこのような見方を示しています[4]。4月の安保理会合では、PKOを世界の平和・安全・繁栄への「投資」であると述べたり[5]、5月の寄稿では、PKOを費用対効果の観点から論じたりもしています[6]。このような事務総長の姿勢には、国連難民高等弁務官(UNHCR)時代に大幅な組織改革を行った経験や、国連への最大拠出国である米国のトランプ政権が国連の効率・効果を重視していることへの考慮が影響していると思われます[7]

  このような考えの下、平和・安全分野での改革を実行に移すため、事務総長は10月に、新しい2局の設立といった事務局組織改編の勧告を国連総会に提示しました[8]。総会は事務総長のこの方針を12月に支持しており、今年はその具体化に向けた議論が行われていく予定です[9]。2019年1月からの開始を目指すこの改革が実現すれば、平和・安全分野では、1992年のPKO局設立や2007年のフィールド支援局の設立に匹敵するほどの大幅な組織改革になる見込みです。

  PKOを巡る2017年のもう1つの特徴としては、個別のミッションのレビューが活発化したことが挙げられます。もともとPKOのレビュー自体はかねてから行われていましたが[10]、昨年これがより積極的に取り上げられた背景は、トランプ米政権、そしてその国連大使であるヘイリー常駐代表が、国連はより効率的で効果的であるべきと強く主張し、PKOについてもその考えを当てはめていることにあります[11]。このアメリカの方針は、平和・安全分野での事務総長の考え方に合致するところもあり、下記のとおりいくつかのミッションでは実際にレビューが行われました。レビューと言うと関係者は身構えてしまうこともあるかもしれませんが、国連ミッションが、その任務を果たすための能力を阻害されない範囲で、より効果的・効率的に活動すべきなのは当然ですので、現在の潮流は歓迎されるべきものと言えると思います。

  ヘイリー米国連大使(UN Web TV)

2017年のPKO:16-1-1+1=15

  ここからは2017年のPKOをより詳しく見てみます。まず総数は、年初の16から年末には15に減りました。具体的には、6月末にコートジボワールのUNOCIが撤収して1減、10月にハイチのMINUSTAHが後継ミッションのMINUJUSTHに移行して1減1増となりました。PKO全体の軍事・警察要員の規模は、2016年12月末の時点では約10万人だったのに対し、2017年12月末では約9万1千人に減少しています[12]

  マンデート(任務)については、既存のミッションのうちで2017年に大きく変わったものは、警察型ミッションに移行したハイチ以外ではありませんでした[13]。規模については、コンゴ民・MONUSCO、アビエ・UNISFA、ダルフール・UNAMIDが数百人から数千人規模で縮小された一方[14]、中央アフリカ・MINUSCAは900人の増員が認められました[15]。PKO全体としては効率化や縮小の流れですが、必要であれば是々非々で増員されることも当然あります。このような判断を可能にするためにも行われているのが、個別ミッションのレビューです。2017年に行われたものとしては、PKOではコンゴ民・MONUSCOとキプロス・UNFICYPと南スーダン・UNMISS[16]、特別政治ミッションではアフガニスタン・UNAMAとイラク・UNAMIがありました[17]。今年もいくつかのミッションでレビューが行われる予定になっています。

  また、昨年の安保理では、特定のミッションだけでなくテーマとしてのPKOについても、安保理本体とその下部組織であるPKO作業部会の双方で活発な議論が行われ[18]、また決議2本が採択され議長声明1本も出されました[19]。安保理でのテーマ的議論は、総会のPKO特別委員会や第4委員会での議論[20]とともに、PKOを巡る最新の傾向や動向を把握する上で非常に重要なものです。

国連現地ミッションと安全対策

  2017年のPKOの特徴の1つは、事故や病気ではない襲撃等の暴力的な行為による犠牲者数が61人となり、残念ながら1990年半ば以降で突出した年になってしまったことです。しかも、2016年までの数年間は年間35人前後で推移していたため、昨年は急増したところです[21]。その内訳は、マリ・MINUSMA、コンゴ民・MONUSCO、中央アフリカ・MINUSCAの3ミッションだけでほぼ全てを占めています[22]。このような状況を受けて、事務総長が昨年設置した独立レビューが今年1月に報告を提出したところで[23]、今後具体的な対策が行われていく見込みです。PKOは不安定な地域に派遣される以上、一定の危険が伴うことを完全に回避することはできず、また、現代のPKOの一部は文民保護を超えた強力なマンデートを持つようになっているため、要員の安全確保のための取組は急務となっています。なお、困難な任務を遂行する中で命を落とすことになってしまったPKO要員・職員に対し、国連は、毎年5月29日の国連平和維持要員の国際デーに追悼を行っています。

  タンザニアでの追悼式典に出席するPKO局長(UNIC Dar es Salaam)

終わりに:2018年の見通し

  昨年から始まった国連事務局と米国の2つの新体制は、今年も引き続き、安保理やPKOについての議論や取組に大きな影響を与えていくと思われます。特に、事務総長による平和・安全分野での改革の行方や、米国のPKOに対する一層の見直し要求の可能性は、注視するに値します。個別のミッションについては、リベリアのUNMILの撤収が3月末に予定されており[24]、また、引き続き様々なミッションでレビューが行われる見込みです。今年もPKOは多様な展開を見せつつ、進歩と進化を遂げていくものと思われます。


 

[1] この内容を含む事務総長の宣誓式典での演説全文はA/71/PV.60参照。

[2] 事務総長演説全文を含む会合議事録はS/PV.7857。

[3] 上記の宣誓式典演説A/71/PV.60参照。

[4] 例えば2017年PKO特別委員会での事務総長メッセージ(ヴィオッティ官房長代読)。プレスリリースSG/SM/18449-GA/PK/228(https://www.un.org/press/en/2017/sgsm18449.doc.htm)参照。

[5] PKOレビューを議題とする本件会合の議事録はS/PV.7918。同会合で事務総長は更に、PKOに関し改革が必要な9つの分野として、1)平和・安全アーキテクチャの改善、2)一層の効率性と説明責任(事務局内の規則・制限の見直し)、3)より明白・現実的・現代的なマンデートの必要性、4)女性のより大きな役割、5)活動や戦略の立案・統制・指導の一層の改善と調整、6)現代技術の一層の活用(訓練・装備強化の慫慂)、7)広報・啓発の強化、8)地域・準地域パートナーとの連帯の深化、及び9)強固で予測可能な予算措置の確保を挙げました。

[6] https://peacekeeping.un.org/en/peacekeeping-is-cost-effective-must-adapt-to-new-reality-antonio-guterres参照。

[7] UNHCRは、グテーレス事務総長は任期中「UNHCRの歴史上最も大規模な構造改革プロセスを監督した」としています(http://www.unhcr.org/antonio-guterres-portugal-2005-2015.html)。組織改革やトランプ政権についての事務総長の考えについては、Financial Timesのインタビューも興味深い内容です(https://www.ft.com/content/c3e252d2-ca0d-11e7-ab18-7a9fb7d6163e)。

[8] A/72/525。政務・平和構築局(DPPA)と平和活動局(DPO)の設立や、3人の事務次長補による地域担当体制等を勧告しました。

[9] 総会決議はA/RES/72/199。これを受けて事務局から提出された詳細情報はA/72/772。

[10] 例えば2016年では、安保理決議2281に基づいて行われた中央アフリカ・MINUSCAの戦略レビュー(S/2016/565)や、同決議2226及び2260に基づいて行われたコートジボワール・UNOCIに関する戦略レビュー(S/2016/297)等。

[11] 米国が議長国を務めた4月のPKOレビューに関する安保理会合で、ヘイリー大使は、PKOの戦略的なレビューの必要性を訴え、ミッションのマンデート更新の際には個別に評価を行うべきと主張しました。演説全文を含む会合議事録はS/PV.7918。

[12] 国連統計(https://peacekeeping.un.org/en/troop-and-police-contributors)。特別政治ミッションの要員は除く。

[13] ハイチのミッションに移行についてはS/RES/2350参照。

[14] MONUSCOはS/RES/2348、UNISFAはS/RES/2352、UNAMIDはS/RES/2363。

[15] S/RES/2387。

[16] MONUSCOはS/RES/2348で要請され結果はS/2017/826。UNFICYPはS/RES/2369で要請され結果はS/2017/1008。UNMISSは事務局が自ら行ったもので結果はS/2018/143。

[17] UNAMAはS/RES/2344で要請され結果はS/2017/696。UNAMIはS/RES/2367で要請され結果はS/2017/966。

[18]  安保理本体のテーマ議論の議題は、4月のPKOレビュー(議長国米、議事録S/PV.7918)、8月のPKOと持続的な平和(エジプト、S/PV.8033)、9月のPKO改革(エチオピア、S/PV.8051)、10月の戦略的部隊形成(仏、S/PV.8064)、11月の警察(伊、S/PV.8086)、12月の部隊形成・能力におけるギャップ(日本、S/PV.8150)。PKO作業部会での議題は、4月のアフリカにおける平和構築と持続的な平和のシナジー構築、5月のPKOにおけるインテリジェンス及び情報収集・分析、6月のマリ・MINUSMAのマンデート更新、10月のPKO改革、11月の安保理・事務局・要員派遣国間の三者間対話の強化(議論の概要はS/2017/1087参照)。

[19] 決議は安保理ハイレベル会合の際の包括的なもの(S/RES/2379)及び警察についてのもの(S/RES/2382)。議長声明は持続的な平和についてのもの(S/PRST/2017/27)。

[20] 本年のPKO特委の報告はA/72/19として発出予定(執筆時点では未発出)。議論等のとりあえずの内容は、報告草案A/AC.121/2018/L.3並びにプレスリリースGA/PK/232及びGA/PK/231参照。

[21] https://peacekeeping.un.org/en/fatalities参照。

[22] MINUSMAが24人、MONUSCOが21人、MINUSCAが15人で計60人。残り1人はダルフール・UNAMID。

[23] 退役軍人のクルス氏がレビュー・チーム長を務めたことから、クルス報告と呼ばれています(本文https://www.un.org/sg/en/content/sg/note-correspondents/2018-01-22/note-correspondents-report-improving-security-peacekeepers)。

[24] S/RES/2333。