第106回 国連平和活動の評価基準に関する学術議論

本コラムにある意見や見解は執筆者個人のものであり、当事務局及び日本政府の見解を示すものではありません。

2020年6月30日
国際平和協力研究員
よしだ ゆうき
吉田 祐樹

 1948年に中東地域における停戦監視のために監視要員を派遣して以来、国連は世界各地にPKOを展開してきました。活動終了後、今後に向けた改善点を探るべく国連内部で総括が行われ、教訓の取りまとめ等が行われることは当然ながら、研究者らも同様に活動がもたらした影響等を分析し、「成功」や「不成功」といった形で評価してきました。しかし、明確な評価基準に基づかずに活動の成否を判断している研究者も存在し、それに関してカナダのマウント・ロイヤル大学のドゥアン・ブラット教授は、「客観的な基準なしに活動を成功や失敗に分類することは、厳密に言うと理論的には間違いである」と指摘しています[1] 。ただ、その評価基準についても研究者の間では意見が分かれており、PKOの活動内容の変化にも伴って議論は今日まで続いています。本稿では研究者らの議論の一部を概観するとともに、国連PKOの評価基準の在り方について考察します。

ディールの評価基準

 研究者の間でよく引用される国連PKOの評価基準は、米テキサス大学ダラス校のポール・ディール教授が1993年に提唱したものです。ディールは2つの基準を示しています。1つ目は武力紛争の抑制です[2]。 これは、PKO最大の任務は紛争当事者による敵対行為の抑制で、派遣地域における暴力行為を抑止、そして予防できる能力で成否を判断するという考え方です。PKOには自らが緩衝地帯となることで紛争当事者を引き離し、全面戦争に発展し得る敵対行為を抑制することが期待されています[3]。また、監視要員が停戦合意の違反行為を監視することで、紛争当事者が抱く敵対勢力からの攻撃に対する不安が軽減され、両者が先制攻撃を行う可能性が減少すると論じています。派遣前と後で敵対行為、当該行為による死者数が減少すれば活動は「成功」と見なされます。
 2つ目は紛争の解決です[4]。ディールは、PKOにとっては「戦争のない状態」を創り出す以上に、紛争当事者間の和解プロセスを支援することも重要な使命であり、紛争の原因となっている当事者間の不一致事項を解決へと導ける能力も評価基準であるとしています。紛争解決の指標として最初に挙げられているのが、正式な和平条約の締結です[5]。次に、PKOの活動が短期間であるということです。これは、活動が長期に及ぶということは、和平交渉が難航しており、現場では不安定な情勢が続き、紛争再発の可能性すらあることを示唆しています。最後に、PKO撤退時に当事者間の紛争悪化の可能性が低くなっているという点です。ディールによれば、PKO撤退直後に武力衝突が再発した場合は、活動は「失敗」であるとしています。

他の研究者によるディール基準の批評

 ディールの評価基準は、PKOを取り巻く環境の変化にも伴い、他の研究者から批評の対象となりました。米ジョージタウン大学のリース・ハワード教授は、ディールの基準は国家間紛争後に派遣されていた「伝統的PKO」[6]の典型的な任務について評価するものであって、昨今国内紛争への対応が主流となっている「多機能型PKO」が従事する任務、例えば武装解除、権力分担、国家建設等は想定されていないと指摘しています[7]。ディールが研究を行っていた当時のPKOの大半は監視任務中心の伝統的PKOであり[8]、それらを評価するための基準を示したわけであって、今日のPKOに見られるような任務の大幅な拡大は想定していなかったと考えられます。
 ブラットは、ディールは紛争当事者の敵対行為による死者数を成否の指標の1つとしているが、これは戦闘員の死者数のみで、一般市民(非戦闘員)の死者数は考慮されていないと指摘しています[9]。また、武力紛争による直接的な死者数のみならず、紛争が引き金となった人道危機(例:食料危機、感染症の蔓延)による死者数も含まれるべきであると述べています。人道支援任務を持つPKOは昨今珍しくありませんが、ディールが研究対象とした冷戦期のPKOにおいては人道危機への対処が主要な任務とはなっていなかったため、人道的な要素を評価基準として考慮しなかったものと考えられます。
 更に、国連PKOに関する著作を多数出版している米シンクタンク、スティムソンセンターのウィリアム・ダーチは、ディールの基準は便利でわかりやすい一方で、受入国、部隊派遣国、安保理理事国、国連事務局等にとっての「PKOの成功」は必ずしも同じことを指すとは限らず、伝統的PKOの枠組みであっても各々の任務は全く同一ではないため、現実的には伝統的PKOの活動評価のために使用することさえも困難であると述べています[10]

評価基準としての任務の達成状況

 ディールの評価基準とは別に、PKOの任務の達成状況を評価基準の1つとして採用するべきとの考えもあります。ハワードは、PKOミッションが安保理から付与された任務を達成できたか否かは、任務を決定した国連にとって最も関連性があり、正当な判断基準であると論じています[11]。同様に、ブラットは、安保理決議に記載された任務内容が十分に達成されたか否かに着目することは、活動そのものの成否を判断する上で、これまでも非常に有効な手法であったと指摘しています[12]。ダーチも、国連の実務家は任務の達成をPKOの成功と直結して考えるであろうと述べています[13]
 しかし、この基準も批評対象の例外ではありません。ディールは、そもそも任務内容は曖昧なものが多く、活動の範囲と実態については議論の余地がある場合が多いため、正当な判断基準にはならないと批判しています[14]。加えて、任務の達成状況ばかりに着目すると、地域の平和や安定といった、PKO本来の大局的な使命を軽視することになり得るとも指摘しています。ブラットがインタビューした国連事務局の高官は、安保理内における政治的な理由から、PKOの任務が実行不可能で非現実的な内容となることは決して珍しいことではないと述べています[15]。このように、評価基準としての任務の達成状況は慎重に取り扱われる必要がありますが、研究者や実務家の間では比較的有力な判断基準の1つとして認識されているようです。

その他の評価基準

 上述の評価基準と比較し、野心的な基準を提唱している研究者も存在します。ヨーロッパ大学セントピーターズバーグ校のダリャ・プシュキナ教授は、PKOは現地の人々の苦しみを軽減するものでなくてはならず、派遣地域における人権侵害行為の減少と難民の再定住状況が成否の基準の1つであると主張しています[16]。紛争後の平和構築の観点から、オタワ大学のローランド・パリス教授は、民主主義及び市場経済に基づいた安定した平和の持続こそが、国連が目指す持続可能な平和 (self-sustaining peace) であり、活動地でそういった環境を整えることができたか否かが重要な評価基準であるとしています[17]。 また、米コロンビア大学のマイケル・ドイル教授とニコラス・サンバニス教授は、紛争後社会における民主的な参加型の平和 (participatory peace) は、持続可能かつ安定的な平和の象徴であり、評価基準に値すると論じています[18]。更に、ハワードはPKO撤退後の現地情勢に対して国連がどの程度責任を負わなければならないのかは議論の余地があるとしつつも、PKOを通じた国家建設支援は現地政府のその後の自立度合いにも影響を及ぼすと考えられるので、検討する価値はあると述べています[19]

おわりに

 本稿では、ディールが提唱した国連PKOの評価基準の考察から始まり、同命題に関する研究者による議論を概観しました。今日の学術界には、派遣地域の平和と安定といったマクロレベルなものから、任務の達成状況をはじめとするミクロレベルなものまで、幅広い評価基準が存在します。今後も議論は継続され、既存の基準には修正が加えられ、新たな基準や指標が提唱されることでしょう。いずれにせよ、評価目的及び評価対象とするPKOの性質を明確にし、適切な評価基準を選択することが重要となります。また、活動の評価のみならず、今後のPKOをより効果的なものとするための政策提言がセットで行われることも肝要です。
 

[1]  Bratt, Duane. 1996. “Assessing the success of UN peacekeeping operations.” International Peacekeeping 3(4): 64-81, 65.

[2]  Diehl, Paul F. 1993. International Peacekeeping. Baltimore: John Hopkins University Press, 34.

[3]  Ibid, 35.

[4]  Ibid, 37.

[5]  Ibid, 39. ディールは、和平条約は指標の1つにはなるものの、文書上の形式的な合意でしかない可能性も考えられるので、そういった場合は長期的な平和と安定を約束するものにはならないとも述べています。

[6]  主たる紛争当事者の合意、公平性、自衛及び任務防衛目的以外の武力不行使の3原則に基づいた、監視任務中心のPKOを指します。

[7]  Howard, Lise M. 2008. UN Peacekeeping in Civil Wars. New York: Cambridge University Press, 6. 冷戦終結後に結成された国連PKOの多くは「多機能型」や「複合型」と呼ばれる形態で、伝統的PKOとは異なり、紛争後の平和構築や国家建設支援も任務に含まれるようになってきました。

[8]  Diehl, International Peacekeeping, 43. ディールの事例研究は、第1次及び第2次国連緊急軍 (UNEF I及びII)、国連コンゴ活動 (ONUC)、国連キプロス平和維持軍 (UNFICYP)、国連レバノン暫定軍 (UNIFIL)、ベイルート拠点の多国籍軍 (MNF) の6件です。この内、ONUC以外は伝統的PKOに分類されるものでした。

[9]  Bratt, “Assessing the success of UN peacekeeping operations,” 66.

[10]  Durch, William J. 1996. “Keeping the Peace: Politics and Lessons of the 1990s.” in William J. Durch ed., UN Peacekeeping, American Policy, and the Uncivil Wars of the 1990s. New York: The Henry L. Stimson Center, 17.

[11]  Howard, UN Peacekeeping in Civil Wars, 7.

[12]  Bratt, “Assessing the success of UN peacekeeping operations,” 67.

[13]  Druckman, Daniel, and Stern, Paul C. 1997. “Evaluating Peacekeeping Missions.” Mershon International Studies Review 41, 151-165, 159.

[14]  Diehl, International Peacekeeping, 33.

[15]  Bratt, “Assessing the success of UN peacekeeping operations,” 67.

[16]  Pushkina, Darya. 2006. “A Recipe for Success? Ingredients of a Successful Peacekeeping Mission.” International Peacekeeping 13 (2): 133-149, 134.

[17]  Paris, Roland. 2004. At War’s End: Building Peace After Civil Conflict. New York: Cambridge University Press, 56.

[18]  Doyle, Michael W, and Sambanis, Nicholas. 2006. Making War and Building Peace: UN Peace Operations. Princeton: Princeton University Press, 19.

[19]  Howard, UN Peacekeeping in Civil Wars, 8.